Evolutionary Cell Biology
Yamato Yoshida Lab
Department of Biological Sciences, Graduate School of Science,
The University of Tokyo
生体ナノマシン「ミトコンドリア分裂リング」と「葉緑体分裂リング」の分子動作機構の解明
Insights into molecular mechanisms of the mitochondrial and plastid division machinery
ミトコンドリアと葉緑体は、ナノフィラメントと複数タンパク質から構成される直径500nm程のリング状生体ナノマシン「ミトコンドリア分裂装置」と「葉緑体分裂装置」によって二つに分断されることで増殖が行われている。しかしながら分裂装置の分子メカニズムには未だ謎が多く、特に収縮メカニズムなどのキネティクスは殆ど明らかではない。このためミトコンドリアと葉緑体の分裂装置の単離技術を基盤とし、(1)ミトコンドリア・葉緑体分裂装置を構成する全タンパク質の機能の解明、(2)超高解像光学顕微鏡法による分裂装置のタンパク質一分子解像度での構造解析、さらに(3)顕微鏡観察下での単離ミトコンドリア・葉緑体の人工分裂制御と分裂装置の人工合成によって、生体ナノマシン“分裂リング”がどのようにして正確にオルガネラを分断するのか、その分子動作メカニズムの解明を目指す。
細胞・ミトコンドリア・葉緑体の分裂増殖を統制するセントラル・ドグマの解明
ミトコンドリアや葉緑体を始めとするオルガネラの分裂増殖、そして細胞の分裂増殖時には、(1)どの遺伝子がどのような順番で発現し、(2)どの程度の数のRNA分子とタンパク分子数が作られ、(3)どのようにして個々のタンパク質が機能することで細胞全体の分裂増殖が実現するのか。mRNAトランスクリプトーム解析やリボソームによって翻訳中のmRNAに着目したトランスレイトーム解析やプロテオーム解析、さらにエピジェネティクスなどのオミクス技術を駆使し、細胞増殖過程を通じた全遺伝子の転写・翻訳レベルを経時的に計測し分析する「ゲノムワイド・セントラルドグマ解析」によって、細胞が増えるという生物の基本的な現象の包括的な理解を目指す。
Quantitative descriptions
of the central dogma
for cell, mitochondrial and
plastid proliferation
オルガネラと細胞の分裂増殖に関わる全遺伝子の同定と分子機序の解明
Decoding
proliferation mechanisms of organelles and cells
近年の研究から、ミトコンドリアや葉緑体だけでなくペルオキシソームなどの単膜系オルガネラも分裂装置に類似した機構によって分裂増殖することが示唆されている。オルガネラ分裂増殖の異常は、ヒトにおいても深刻な疾患に至ることが知られており、基礎生物学的な側面だけでなく医学的にも極めて重要な機構である。しかしながら各オルガネラの分裂増殖には未だ多くの謎が残されている。真核生物としては最小の遺伝子数しか持たない原始真核生物シゾンでさえ、オルガネラ分裂増殖期に特異的に発現する機能不明遺伝子が数多く存在することが分かっており、オルガネラの分裂増殖に関わる未知の分子機構が多数存在することを強く示唆する。本研究では、極めてシンプルなゲノム・細胞構造からなるシゾンを用いて、オルガネラ分裂増殖期に特異的に発現する全遺伝子のゲノムワイド解析を実行し、真核細胞を構成する全てのオルガネラの分裂増殖機構を明らかにすることを目指す。
新たな遺伝子の創出メカニズム”De novo gene birth”の解明
新たな遺伝子の獲得は、細胞に新たな機能をもたらすことに繋がるため、生物の進化において決定的に重要な出来事である。こうした新たな遺伝子は、既存の遺伝子の重複だけでなく、ゼロから創られる新たな遺伝子の出現(非コード領域のゲノム配列が機能的な配列へと変化)である「De novo gene birth」によってもたらされると考えられている。しかしDe novo遺伝子の形成過程には依然として多くの謎が残されている。真核生物には原核生物には存在しない多くの新たな遺伝子(真核生物特異的タンパク質コード遺伝子)が存在するが、これらは真核生物誕生に関連して創出されたDe novo遺伝子である可能性が高い。De novo遺伝子の誕生と進化の仕組み解くことによって、真核生物が持つ進化可能性の理解を目指す。